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前橋地方裁判所 昭和32年(わ)162号 判決

国籍 アメリカ合衆国

住居 群馬県邑楽郡大泉町大字小泉所在合衆国陸軍キヤンプ・ドルウ地区司令部司令部中隊

合衆国陸軍三等特技兵 ウイリアム・エス・ジラード

一九三五年八月一一日生

右被告人に対する傷害致死被告事件について、当裁判所は、検察官杉本覚一、同大平要、同小縄快郎出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役三年に処する。

ただし、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用中、証人に支給した分は、すべて被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

(一)  被告人の略歴

被告人は、一九三五年八月一一日アメリカ合衆国イリノイ州ストリタ市で出産し、小学校八年、中学校一年の課程を修めた後、一九五三年一一月アメリカ合衆国陸軍に志願して服役し、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定にいわゆるアメリカ合衆国陸軍の一員として、一九五四年四月日本国に入国し、北海道駐留部隊勤務を経て同年九月埼玉県大里郡三尻村所在キヤンプ・ウイテイントンに移り、以来同キヤンプに駐留し、本件当時アメリカ合衆国陸軍第一騎兵師団第八騎兵連隊第二大隊F中隊所属の三等特技兵として自動車運転手を勤め、その後肩書部隊に転属し現に服役中のものである。

(二)  本件当日午前における演習の状況

被告人は、昭和三二年一月三〇日、群馬県群馬郡相馬村(この村名は本件当時のもので、以下の記載も同様である。)所在キヤンプ・ウエア演習場(榛名山の東南麓に位置し、面積約七〇〇万坪に及ぶ旧日本陸軍相馬原演習場。)で行われた右F中隊所属将兵三〇余名による演習に小銃手として参加し、同日午前八時前後頃、同演習場内相馬村大字広馬場所在御嶽山(米軍による呼称名はシユライン・ヒル、以下括弧中の名称はすべて同趣旨である。)附近から小銃および軽機関銃の実包射撃による陣地攻撃演習を開始し、その北西方約一キロメートルの距離に在る天神山(チヨコレート・ドロツプ。)を経て、その北西方約二〇〇メートルに在る同大字所在物見塚(六五五ヒル、標高約六五五メートル。)を攻撃し、午前一一時過頃ひとまず午前中の演習を終了し、昼食のため物見塚附近で休憩に入つたのである。

(三)  米軍将兵とタマ拾いの関係

そもそも、日米両当局は、かねてより同演習場周辺の要所に立入禁止の標柱および制札を設置するほか、演習実施の際にはその周辺の住民に対し、関係機関を通じて演習を行う旨予告するとともに、演習当日同演習場周辺など各所から見易い特定の場所に赤旗を掲揚して、危険につき演習場内への立入を禁止する旨警告し、地元日本国警察当局も演習中一般民衆の立入禁止のため種々の方策を実施し、かつ日米両国の関係機関においてしばしば協議を開き、その実効をあげるための対策を講じ、もつて危害の発生を未然に防止するよう努力していたが、同演習場が前記の行政協定第二条にいわゆる合衆国軍隊が使用する施設又は区域であるか否かが明らかでないため、同演習場内の立入行為そのものを遽に処罰できなかつたことと、他方銃弾の空薬きようや砲弾の破片などの金属が高価で売れるところ、米軍当局がこれら物資の処理に殆んど関心を示さなかつたことから、これを拾得して生計の足しにするなどのため、右住民のうち演習場内へ立ち入る者も漸次に増え、遂には右の警告などをも無視して、演習実施中にもかかわらず場内へ立ち入り、しかもこれらタマ拾いの増加に伴ない、その相互間の競争も激化し、演習のため行動する将兵につきまとつて拾い集める者も出て来る一方、米軍将兵のうちにも右のタマ拾いに対し好意的に多量の空薬きようを与える者もあつて、タマ拾いに対する日米双方の取締も所期の成果をあげ得ない実状であつた。

(四)  本件当日におけるタマ拾いの行状

本件の一月三〇日におけるF中隊の演習に際しても、真ちゆうの小銃弾や軽機関銃弾の空薬きようが拾えるためか、演習開始の頃から少なくとも六、七〇名に余るタマ拾いが前記警告を冒して演習場内に立ち入り、ある者は演習中の将兵につきまとい、ある者は散兵線の前方に飛び出し、ある者は射撃直後のやけた軽機関銃の周囲に群がり、先を争つて空薬きようの拾得に熱中する余り、演習の執行を妨げるとともに、将兵ならびにタマ拾いの身命に危険を招いたため、実包による演習を中止させ、午後の演習においては空包を使用することにその予定を変更させてしまう程の状況であつた。

(五)  本件当日午後の演習開始より本事件発生に至るまでの経緯

かかる状況の下にF中隊は昼食後午後〇時半過頃より演習を再開し、部隊をモーホン少尉指揮の一隊とジガンテイ少尉指揮の一隊とに二分し、被告人は、モーホン少尉の隊に属し、まずモーホン少尉指揮の下に御嶽山附近に至り、同所から行動を開始して物見塚東峯およびその附近に布陣するジガンテイ少尉の隊を攻撃し、この攻撃においては匍匐前進し、あるいは空包を撃ちながら進撃し、物見塚東南麓附近に到達した午後一時半頃攻撃を終止して将兵一同物見塚東峯に登り、続いてジガンテイ少尉の隊が右同様の演習を実施するため、モーホン少尉の隊と交代して物見塚を降り、御嶽山に向かい出発したのであるが、その交代に際し、モーホン少尉はジガンテイ少尉より物見塚の東西両峯の中間に存する鞍部中央附近に存置する軽機関銃一挺およびフイールド・ジヤケツなど数点の管理を引き継いだのである。当時モーホン少尉指揮下の将兵は右のような攻撃演習を実施した直後であつて、その多くの者はかなり疲労していたため、物見塚東峯頂上附近から、その東側斜面上にかけて、モーホン少尉をはじめ各自思い思いの姿態で休憩をとつていたのであるが、同少尉はたまたまその身辺にいた被告人およびビクター・エヌ・ニクル三等特技兵の両名に対し、前記軽機関銃などの警備を命じ、これがため、被告人はニクル三等特技兵とともに右の鞍部におもむき、休憩を兼ねながら右軽機関銃などの警備の任に就いたのである。たまたま、その頃、物見塚西峯の東側斜面およびその南側麓附近に少なくとも数名以上のタマ拾いが、空薬きようを拾う機会をうかがいながら演習の推移や将兵の挙動を見守るようにしていたのであるが、ニクル三等特技兵は右の警備に就くや間もなく、身辺に落ちていた銃弾の空薬きようを拾つて右の鞍部南斜側面下方に投げ棄て始め、この動作を数回繰り返し行ううち、被告人は、右ニクルをして被告人の所在位置からほど遠くない右の鞍部南側斜面上の個所に空薬きようを投げさせたうえ、前記西峯の東側斜面に待機していたタマ拾いに向かつて手招をしながら声をかけ、右の空薬きようの投げ棄てられた個所を指したので、タマ拾いの一人が右の斜面上から下り、その場に駆けつけ空薬きようを拾い始めたが、同時に右鞍部の西端北側附近からもタマ拾いの一人である相馬村大字柏木沢六五四番地の二農業坂井秋吉の妻女なか(明治四三年八月一三日生)が同所に駆けつけ薬きようを拾得しようとしたところ、被告人ジラードは、同女に対し、鞍部西端附近に在る壕を指さし、「ママサンダイジヨウビ タクサン ブラス ステイ」と申し向け、もつて同女をして右の壕内に空薬きようが多量にあるから拾つてよい旨を理解させ、よつて同女をその壕内におもむかせたうえ(時に午後一時五〇分頃と思われる。)、所携のMワン小銃(当庁昭和三二年領第八〇号の四)の銃先に装着せる手りゆう弾発射装置(同号の五)に空包小銃弾空薬きよう(同号の三、長さ約六二・六ミリメートル、底部の直径約一一・九ミリメートル)を、その開口部を奥にして差し込み、空包一発を装てんしたうえ、突如、同女に向かい、「ゲラル ヘア」と叫ぶとともに右小銃をたずさえたまま前記の壕に向かい走り寄り、もつて同女を威嚇し、これに驚いた坂井なかが壕からはい上り、その北西方へ逃げ延びようとして走り行くその背後一〇メートル内外の距離から、同女の身辺をねらつて空包を撃ち、この空包のガス圧により前記空薬きようを発射し、もつて同女に対し暴行を行えたところ、意外にも右空薬きようが同女の左背面第七肋間部に命中し、この射入に因つて同女に、左背部から下行大動脈上部に達する全長約一一センチメートルの盲管射創に基づく大動脈裂創を負わせ、右裂創による失血のため、即時、その場において、右坂井なかを落命させたものである。

(証拠の標目)

一、医師正木新樹作成の鑑定書(甲第七号証)。

一、警察庁技官岩井三郎外二名作成の昭和三二年二月八日附鑑定書(甲第八号証)および同庁技官富田喜寿作成の同年同月一一日附鑑定書(甲第九号証)。

一、司法警察員作成の「変死屍体解剖の撮影について」と題する書面(甲第一〇号証)および「屍死解剖の立会について」と題する書面(甲第一一号証)。

一、群馬県群馬郡箕郷町長作成の「坂井なか」に関する戸籍謄本(甲第四七号証)。

一、公判準備における昭和三二年九月二四、二五両日施行の検証調書および同年一〇月一九日施行の検証調書。

一、検察官作成の昭和三二年二月一九日附実況見分調書(甲第一六号証)。

一、公判準備における証人ビクター・エヌ・ニクル(昭和三二年九月二四日、同年一〇月一九日)、同小野関英治(同年九月二五日、同年一〇月一九日)に対する各証人尋問調書。

一、証人ビクター・エヌ・ニクル、同小野関英治、同坂井久司、同ウイリアム・エヌ・ジガンテイ、同ビリー・エム・モーホン、同梅沢博幸、同清水初五郎、同ワルター・シー・シヤープの当公判廷における各証言。

一、ヒユーレツト・エル・フオーテンベリ・ジユニア(甲第二三号証)、テレル・テイラー(甲第二五号証)、ビリー・エム・モーホン(甲第二六号証)、ウイリアム・エイ・ジガンテイ(甲第二七号証)、佐藤喜美栄(甲第三五号証)の検察官に対する各供述調書。

一、司法警察員作成の昭和三二年二月一一日附実況(実験)見分調書(甲第一四号証)および同月一八日附実況見分調書(甲第四五号証)。

一、法務事務官作成のカール・シー・アリグツドより第八騎兵連隊捜査官宛「一九五七年一月三〇日の演習に参加した兵員について」と題する書面の日本訳書面(甲第二一号証)。

一、リチヤード・シー・マーキリー作成の一九五七年三月一八日附検察官宛「被疑者ウイリアム・エス・ジラード、坂井なか死亡事件に関する通知」と題する書面(甲第二八号証)。

一、前橋調達事務所長作成の検察官宛「相馬原演習場の使用状況等について」と題する書面(甲第一九号証)および「相馬原演習場の沿革および使用状況について」と題する書面(甲第二〇号証)。

一、キヤロリン・エム・アンソニー作成の一九五七年一〇月一四日附証明書(乙第一二号証)。

一、押収のメリヤス・シヤツ二枚および紺色上衣一枚(当庁昭和三二年領第八〇号の一)、空薬きよう三個(同号の二)、空薬きよう一個(同号の三)、Mワン小銃一挺(同号の四)、手りゆう弾発射装置一挺(同号の五)。

一、被告人の当公判廷における供述。

一、被告人の検察官に対する供述調書三通(甲第四八号証から甲第五〇号証まで)。

以上の各証拠を綜合すれば、判示事実は、その犯罪の証明十分である。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、本件事犯を目し、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定第一七条3(a)(ⅱ)にいわゆる公務執行中の行為から生じた犯罪であると做し、これを前提とし、本件については合衆国の軍当局が裁判権を行使する第一次の権利を有する旨主張し、たとえ合衆国が日本国の当局に本件に対する裁判権を行使しない旨を通告しても、この通告は日本国の当局からの第一次の権利の放棄の要請によつてその権利を放棄した場合と異なるのであるから、右の通告により当然日本国が裁判権を行使する第二次の権利を取得するものとは認められないという趣旨と解される。

しかしながら、本件は、それが公務執行中の行為から生じた犯罪であるか否かにかかわらず、前記行政協定第一七条1(a)および(b)により、日本国の裁判権と合衆国の軍当局の裁判権とが競合する場合であつて、この場合には同条3の規定が適用されるのであるから、いやしくも合衆国の軍当局が同条3(c)前段の規定に従い一九五七年五月一七日附書面で日本国の当局に対し、本件に対する刑事裁判権を行使しない旨を通告した以上、合衆国軍当局は本件につき、日本国内においての裁判権を失つたものと解すべきである。そして右の不行使の通告が他方の国の当局からの要請によつて裁判権を行使する権利を放棄した場合、すなわち同条3(c)後段の規定による場合と異なることは弁護人主張のとおりであるが、右いずれの場合でも合衆国軍当局が日本国内での裁判権を失うという点は全く同一といわねばならない。従つて、日本国の裁判所が本件につき行政協定第一七条1(b)により有する裁判権を行使することには、いささかも疑義はない。従つて本件につき日本国当局と合衆国軍当局とのいずれが裁判権を行使する第一次の権利を有するかは、もはや過去のことであつて、説示する利益を欠き、従つてまたこの意味からする本件が公務執行中の行為から生じた犯罪であるか否かを判断する必要は少しもないのであるが、他の意味で重要な争点と認められるので、以下に説示することとする。

すなわち、本件が公務に従事している時間中に、その場所で発生したものであることは、これを認め得ても、上官の命令による軽機関銃などの警備という公務の遂行とは直接的に何の関係もなく、従つて公務遂行の過程に犯された行為でないことは、判示認定の事実によつて、おのずから諒解すべきであるが、前掲各証拠からも明らかなとおり、本件当時タマ拾いによつて軽機関銃やフイールド・ジヤケツなどどが盗まれたり、あるいは毀損されたりするような具体的な心配があつたものとは認められず、タマ拾いはもつぱら空薬きようを拾うことにのみ気を配つていたものである。それゆえにこそ被告人とともに警備の命を受ていたニクル三等特技兵も軽機関銑などの所在からやや離れた鞍部東寄りの個所で休憩しながら、判示のように空薬きようを特段の意味もなく、いわば退屈凌ぎに何度も投擲していたものと思われる。そして被告人がタマ拾いに向けて発砲したのは判示の坂井なかだけに止まらない。その直前にも西峯の東側斜面から下りて来て薬きようを拾つた判示タマ拾いの一人小野関英治に対しても、突然同人の身辺に走り寄り、これに驚いて逃げる同人の背後からその身辺をねらつて判示と同様の方法により空薬きようを発射した事実があり、このように、わざわざタマ拾いを招き寄せてはこれを追い払うが如きことは到底公務の執行とは考えられない。しかも、空薬きようを手りゆう弾発射装置に挿入して空包を撃ち、これを発射するが如きことも武器を毀損する虞ある使用方法にして合衆国軍当局の許さない用法であり、またみだりに近距離から人に向けて空包を撃つことも禁止されているのであつて、本件は、軽機関銑などの警備の任務の遂行とはおよそかけはなれた主観的にも客観的にも何の関連もない全く被告人個人の一時の興味を満足させるための度を過ごした一つの悪戯としか考えられない。従つて本件が刑法第三五条にいわゆる正当行為に該当する旨の弁護人の主張は採容の限りではない。

次に、日本国は前記行政協定第一七条1により同条の規定に従うことを条件として裁判権を有するところ、本件については、日本国の当局が合衆国の軍当局に対して金井辰雄ら五名の検察官に対する供述調書を提示せず、同条6(a)の両国当局の犯罪の捜査の実施並びに証拠の収集および提出についての相互援助の規定に違反して公訴を提起したものであるから、日本国は裁判権を有しないとの主張について判断するに、関係資料によれば、合衆国の軍当局が日本国の当局に対し、右証拠資料の提出を要請したこともなく、また日本国の当局において必要と認め自発的に提出したこともなく、従つて合衆国の軍当局が日本国の当局からこれら資料を受領していないことは明らかであるが、前記行政協定第一七条6(a)の規定の趣旨は、両国いずれの当局も他方の国の当局に対し当該事件の証拠資料の一切をあげて提示しなければならないことを要求するものでなく、当該事件処理上必要と思料される範囲内の資料を提示すれば足るものと解するのが相当であつて、弁護人主張の前記証拠資料が本件の処理に重大な影響を及ぼすほどの資料とも認められず、かりにそうでないとしても該資料の存在とその内容については本件犯罪の捜査当時既に合衆国の軍当局において知りまたは知り得たものと認められるから、日本国の当局が合衆国軍当局に対し、これら証拠資料の提出方の要請もないままにたまたま提示しなかつたところで、前記行政協定第一七条6(a)にいわゆる相互援助に何ら欠くるところはない。従つて、同主張も理由がなく採容することはできない。

(法令の適用および犯情)

被告人の判示行為は、刑法第二〇五条第一項の傷害致死罪に該当するので、その所定刑期範囲内で処断すべきものである。

よつてその情状について見るに、まず、本件は、被告人が武器を不法な目的のために不正な用法で使用し、人命を失うに致らしめるという重大な結果を招いたものであつて、必ずしも犯情軽くないものがある。しかしながら、本件の誘因として、これまで、関係当局の努力にもかかわらずタマ拾いの者が立入禁止の警告を冒して演習中の演習場内に立ち入り、尊貴であるべき身命を、自ら危険な境地に挺してまで利欲のため、あえてタマ拾いに熱中する一方、一部のタマ拾いと一部の米兵とが互いに節度を越えて狎れ合つたことなどが考慮され、延いては本件のような悪ふざけによる不祥事の発生も予見できないことではないのである。本件当日もまた、かかる状況のもとで演習が行われたもので、その参加将兵のなかに混入して無秩序に各自思い思いに行動するタマ拾いの側にも非難さるべき一半の責は免れ難く、これを一兵卒に過ぎない思慮の未熟な被告人のみに、本件事故の全責任を負わせることは相当でない。また、本件演習に当り被告人が支給された小銃がたまたま故障したため、副分隊長の某下士官からその携帯の小銃を借り受け、その小銃に通常分隊長や副分隊長のみが所持し、兵卒の所持しない手りゆう弾発射装置が装着されたままであつたところから、この武器が被告人をして稚気を起こさせ、本件を偶発したものとも認められ、被告人がタマ拾いを特に蔑視したとか、あるいは被告人が坂井なかの身体に命中するようにねらい射ちしたという証拠は何処にもないのであつて、被告人にとつて致死の結果はもとより、発射薬きようの命中ということがいかに意外な出来事であつたかは、本件発生直後の被告人の周章狼狽ぶりからも容易に推測することができるのである。また合衆国の軍当局においても、坂井なかの遺族の将来を案じてその慰しやの方法を講じ、その承諾さえ得れば相当額の金員を直ちに交付できる用意を完了していることが認められる。そして被告人自身も十分に前非を悔い、再犯の虞もないと思われるから、被告人の年令、性行、経歴、環境など諸般の情状を考慮すれば、被告人を懲役三年に処し、刑法第二五条第一項を適用して、この裁判確定の日から、四年間右刑の執行を猶予するのが相当である。

訴訟費用につき刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用し、その一部である各証人に支給した分のみにつき被告人をして負担させる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河内雄三 裁判官 斎川貞造 裁判官 平田孝)

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